朝いれたコーヒーのカップが、気づけば空になっている。
飲んだはずなのに、どんな味だったのかを思い出せない。
頭の中は、今日の予定や昨日の気がかりでいっぱいだったからです。
体はここにいるのに、心は過去や未来へ出かけてしまっている。
そんな心を「今」に連れ戻す練習が、マインドフルネスです。
この記事では、マインドフルネスの意味や広まった理由、家でできる基本のやり方、仕事中にできる取り入れ方を紹介します。
よく混同される瞑想との違いもまとめたので、「言葉は聞くけれど、よくわからない」という方は参考にしてみてください。
- マインドフルネスの意味と、その由来がわかる
- マインドフルネスが医療や企業に広まった理由と、研究でわかっていることがわかる
- 呼吸・ボディスキャン・歩く・食べるマインドフルネスのやり方がわかる
- 仕事中にできるマインドフルネスの取り入れ方がわかる
- マインドフルネスと瞑想の違いと、続けるコツがわかる
マインドフルネスとは?意味をやさしく解説
マインドフルネスという言葉は知っていても、説明しようとすると難しいもの。
まずは、その意味と由来から見ていきましょう。
今この瞬間に、評価をせずに意識を向けること
日本マインドフルネス学会は、マインドフルネスを「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義しています。
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)も、マインドフルネスを、判断を加えずに今この瞬間に注意を向け続けることと説明しています。
ポイントは、「今」に意識を向けることと、「評価をしない」ことの2つです。
たとえば、不安な気持ちが浮かんだときに「不安になってはだめだ」と打ち消すのではなく、「今、不安を感じているな」とそのまま気づく。
この「気づいて、ただ眺める」姿勢こそが、マインドフルネスの中心にあります。
心が「自動操縦」になっているときに気づく
私たちは一日の多くの時間を、心ここにあらずの状態で過ごしています。
歩きながら明日の段取りを考え、食事をしながらスマホを眺め、人の話を聞きながら返す言葉を探している。
こうした状態は、体が勝手に動いているという意味で「自動操縦」と呼ばれることもあります。
自動操縦そのものは、悪いことではありません。
ただ、心が過去の後悔や未来の心配ばかりに向いていると、気づかないうちに疲れがたまっていきます。
マインドフルネスは、その自動操縦に気づき、意識を今に戻す力を育てる練習ともいえるでしょう。
由来は仏教の「サティ(念)」
マインドフルネスの由来は、仏教の「サティ」という言葉です。
サティは日本語では「念」や「気づき」と訳され、仏教の修行のなかで大切にされてきた心のあり方を指します。
その考え方が英語で「mindfulness」と訳され、のちに宗教色をのぞいた心のトレーニングとして、医療や心理学の分野で取り入れられるようになりました。
今では宗教とは関係なく、誰でも日常で実践できる方法として広まっています。
マインドフルネスが広まった理由
マインドフルネスは、ここ数十年で医療や企業、教育の場にまで広がりました。
その背景を知っておくと、実践するときの心がまえも変わってきます。
医療の場から始まった「MBSR」
広まるきっかけとなったのが、「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」というプログラムです。
UMass Memorial Health のマインドフルネスセンターによると、MBSRは1979年に、アメリカのマサチューセッツ大学の医療センターでジョン・カバットジン博士によって開発されました。
MBSRは8週間のプログラムで、ストレスとのつき合い方や不安の軽減、心と体のつながりを学んでいくもの。
慢性的な痛みやストレスを抱える患者さんのために始まったプログラムが、今では世界中で教えられています。
企業や教育の場にも広がった
医療の場で成果が報告されるにつれて、マインドフルネスは企業の研修や学校教育にも取り入れられるようになりました。
働く人のストレス対策や、集中力を高める方法として注目されたのです。
日本でもここ10年ほどで、マインドフルネスという言葉を耳にする機会が一気に増えました。
特別な道具や場所がいらず、数分からでも始められる手軽さも、広まった理由のひとつでしょう。
研究でわかっていること
NCCIHの「瞑想とマインドフルネスについて知っておきたい8つのこと」では、マインドフルネスにもとづく実践が、不安や抑うつに役立つ可能性があると紹介されています。
不眠をやわらげ、睡眠の質を高める可能性があることにもふれられています。
一方で、痛みへの効果については研究によって結果がまちまちで、急性の痛みより慢性の痛みのほうが根拠は強いとされています。
マインドフルネスは「何にでも効く魔法」ではなく、心と体を整える方法のひとつ。
そう受け止めておくと、過度な期待をせずに続けやすくなるはずです。
マインドフルネスのやり方:基本の4つ
マインドフルネスは、座って静かに行うものだけではありません。
呼吸、体の感覚、歩くこと、食べること。
どれも、今この瞬間に意識を向けるための入り口になります。
呼吸に意識を向ける
もっとも基本的なのが、呼吸に意識を向けるやり方です。
- 椅子に座り、背すじを軽く伸ばして、肩の力を抜く
- 目を閉じるか、視線を斜め下に落とす
- 鼻から入って出ていく空気や、お腹がふくらんでしぼむ感覚に意識を向ける
- 考えごとが浮かんだら、「考えごとをしていたな」と気づいて、また呼吸に意識を戻す
呼吸をコントロールしようとせず、自然な呼吸をそのまま感じるのがコツです。
まずは3分から始めてみてください。
ボディスキャンで体の感覚に気づく
ボディスキャンは、体のすみずみに順番に意識を向けていく方法です。
仰向けに寝るか、椅子に座った状態で、足先から始めます。
足の指、足の裏、ふくらはぎ、ひざと、少しずつ意識を上に移していきましょう。
温かさや冷たさ、重さ、服がふれている感覚など、そこにある感覚をただ感じ取るだけでかまいません。
こわばっている場所に気づいたら、無理にゆるめようとせず、「ここが固くなっているな」と気づくだけで十分です。
歩くマインドフルネス
歩くときの体の感覚に意識を向けるのが、歩くマインドフルネスです。
足の裏が地面にふれる感覚、体重が左右に移っていく感覚、腕のふり。
いつもより少しゆっくり歩きながら、一歩一歩を感じてみてください。
駅までの道や、家の廊下を歩くときでも実践できます。
景色や音、風の冷たさに気づくことも、立派なマインドフルネスです。
食べるマインドフルネス
ひと口目を、時間をかけて味わってみましょう。
食べものの色や形、香りをたしかめ、口に入れたら、舌ざわりや味の変化をゆっくり感じながらかみしめます。
スマホやテレビを消して、食べることだけに意識を向けるのがポイント。
毎食でなくても、一日のうちひと口だけ、ゆっくり味わう時間をつくるところから始めてみてください。
仕事中にできるマインドフルネス
マインドフルネスは、まとまった時間がとれない忙しい日にこそ役に立ちます。
仕事の合間に、短く取り入れる方法を紹介します。
作業の区切りに「1分間の呼吸」
メールを1通送り終えたとき、資料をひとつ仕上げたとき。
作業の区切りに、1分だけ呼吸に意識を向けてみてください。
椅子に座ったまま目を閉じ、3回ほどゆっくり呼吸をして、空気が出入りする感覚を感じます。
たった1分でも、頭の中で次々と流れていた考えがいったん止まり、次の作業に気持ちを切り替えやすくなるでしょう。
「ながら作業」をやめて、ひとつのことに集中する
メールを書きながらチャットに返信し、合間にニュースを眺める。
いくつもの作業を同時に進めると、心はあちこちに散らばったままです。
今やっているひとつの作業にだけ、意識を向けてみましょう。
通知を切って、タイマーで25分などと時間を区切ると集中しやすくなります。
ひとつのことに集中する時間も、日常のなかのマインドフルネスといえます。
イライラしたときは「立ち止まる・呼吸する・気づく」
仕事中に腹が立ったり、焦ったりしたときは、すぐに反応する前に、ひと呼吸おいてみてください。
- 立ち止まる:手を止めて、いったん動きを止める
- 呼吸する:ゆっくり息を吐き、呼吸に意識を向ける
- 気づく:「今、自分はイライラしているな」と、体や心の状態をそのまま観察する
感情に気づくだけで、反射的に言い返したり、勢いでメールを送ったりすることを防ぎやすくなります。
感情をなくすのではなく、感情と少し距離をとるための方法です。
会議や電話の前に、ひと呼吸おく
会議や大切な電話の前は、気持ちが急いでいることが多いもの。
始まる前に、足の裏が床についている感覚を感じながら、ひと呼吸おいてみましょう。
体の感覚に意識を戻すと、頭の中の緊張が少しほどけ、相手の話に集中しやすくなります。
誰にも気づかれずにできるので、どんな場面でも取り入れやすい方法です。
マインドフルネスと瞑想の違い
マインドフルネスと瞑想は、よく同じ意味で使われます。
ですが、厳密にいうと指しているものは少し違います。
瞑想は「方法」、マインドフルネスは「心の状態」
瞑想は、心を落ち着けたり、ひとつのことに意識を集中させたりするための「方法」や「練習」のこと。
NCCIHによると、瞑想には数千年の歴史があり、感覚や、くり返し唱える言葉に意識を集中させるものなど、さまざまな種類があります。
一方のマインドフルネスは、今この瞬間に評価をせずに気づいている「心の状態」や「心のあり方」を指します。
瞑想はマインドフルネスを育てる方法のひとつであり、マインドフルネスは瞑想をしていないときでも、日常のなかで実践できるものなのです。
瞑想そのものの基本のやり方については、瞑想とは何か?初心者でも3分でわかる意味・やり方・効果を完全解説で詳しく紹介しています。
「マインドフルネス瞑想」とは
マインドフルネスの状態を育てるために行う瞑想は、「マインドフルネス瞑想」と呼ばれます。
この記事で紹介した呼吸に意識を向けるやり方やボディスキャンも、マインドフルネス瞑想の一種です。
その源流のひとつが、仏教に伝わる「ヴィパッサナー瞑想」。
ありのままを観察するという考え方は、マインドフルネスと深く重なっています。
くわしくは、ヴィパッサナー瞑想とは?意味・やり方・サマタ瞑想との違いを初心者向けに解説をご覧ください。
どちらから始めればいい?
座って静かに取り組む時間をとれる方は、3分間の呼吸の瞑想から始めると、マインドフルネスの感覚がつかみやすくなります。
まとまった時間がとれない方は、食べる・歩くといった日常の動作から取り入れてみましょう。
どちらが正しいということはありません。
自分の生活に合う入り口から始めて、続けていくことのほうが大切です。
マインドフルネスを続けるコツと注意点
マインドフルネスは、一度で身につくものではありません。
無理なく続けるためのコツと、知っておきたい注意点を紹介します。
雑念が浮かぶのは、失敗ではない
呼吸に集中しようとしても、すぐに考えごとが浮かんでくるもの。
「うまくできない」と落ちこむ方も多いのですが、雑念が浮かぶのはごく自然なことです。
大切なのは、考えごとに気づいて、そっと意識を呼吸に戻すこと。
気づいて戻る、そのくり返しこそが練習になります。
「また考えていたな」と気づけたら、それは失敗ではなく、うまくいっている証拠です。
短い時間を、毎日続ける
週に一度30分行うより、毎日3分続けるほうが、習慣として身につきやすくなります。
朝起きてすぐ、昼休みの終わり、寝る前など、毎日同じタイミングで行うと忘れにくいでしょう。
寝る前のマインドフルネスは、考えごとで眠れない夜にも役立ちます。
寝つけないときに試せるほかの方法は、眠れないときの対処法|寝れない夜にすぐ試せる方法と、寝つきが悪くなる原因でまとめています。
つらくなったら、無理をせずに中断する
マインドフルネスは、一般的にリスクの少ない方法とされています。
ただし、NCCIHによると、6,000人以上を対象にした分析では、約8%の人が不安や気分の落ち込みなどのよくない体験を報告していたそうです。
実践中に、つらい記憶がよみがえる、不安が強くなるなどして苦しくなったときは、無理に続けずに目を開けて中断しましょう。
心の不調で治療を受けている方は、始める前に主治医に相談しておくと安心です。
よくある質問
Q. マインドフルネスは1日何分くらい行えばいいですか?
A. 初めのうちは、1日3〜5分程度で十分です。
大切なのは時間の長さより、毎日続けること。
慣れてきたら、10分、15分と少しずつのばしていくとよいでしょう。
Q. マインドフルネスは宗教ですか?
A. いいえ、宗教ではありません。
もとは仏教の考え方に由来していますが、現在のマインドフルネスは宗教色をのぞいた心のトレーニングとして、医療や企業、教育の場で取り入れられています。
Q. 目は閉じたほうがいいですか?
A. 閉じても開けても、どちらでもかまいません。
目を閉じると眠くなる方や、閉じると落ち着かない方は、視線を斜め下に落として、ぼんやり床を見るようにするとよいでしょう。
Q. 寝ながらマインドフルネスをしてもいいですか?
A. はい、仰向けに寝た状態でもできます。
とくにボディスキャンは、寝た姿勢で行うのに向いています。
途中で眠ってしまってもかまわないので、寝る前のリラックスの時間に取り入れてみてください。
Q. マインドフルネスの効果はいつごろから感じられますか?
A. 感じ方には個人差があります。
1回でも気持ちが落ち着くのを感じる方もいれば、数週間続けてから「前よりイライラしにくくなった」と変化に気づく方もいます。
効果を急がずに、まずは続けることを目標にしてみてください。
まとめ:マインドフルネスは「今」に戻るための練習
この記事について、あらためて整理します。
この記事のまとめ:
- マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に、評価をせずに意識を向けること
- 由来は仏教の「サティ(念)」で、1979年に開発されたMBSRをきっかけに医療や企業に広まった
- 基本のやり方は、呼吸に意識を向ける、ボディスキャン、歩く、食べるの4つ
- 仕事中は、作業の区切りの1分間の呼吸や、イライラしたときの「立ち止まる・呼吸する・気づく」が取り入れやすい
- 瞑想は「方法」、マインドフルネスは「心の状態」で、瞑想はマインドフルネスを育てる方法のひとつ
- 雑念が浮かんでも失敗ではなく、気づいて戻ることのくり返しが練習になる
心が過去や未来へ出かけてしまうのは、誰にでもあることです。
大切なのは、そのたびに気づいて、そっと「今」に戻ってくること。
次にコーヒーを飲むときは、ひと口目の香りと温かさを、ゆっくり味わってみてください。
それが、あなたのマインドフルネスのはじまりです。
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