生まれたばかりの赤ちゃんは、お腹をふくらませたり、へこませたりしながら呼吸しています。
本来、人はお腹の奥にある横隔膜を使って、深く呼吸する力を持って生まれてくるものです。
ところが大人になるにつれ、忙しさや緊張、姿勢のくせによって、いつのまにか胸だけで浅く息をするようになっていきます。
腹式呼吸は、特別な技術ではありません。
もともと持っていた呼吸を、思い出す練習のようなもの。
コツさえつかめば、寝る前や仕事の合間に、いつでも自分をゆるめる道具になります。
この記事では、腹式呼吸のしくみと正しいやり方、うまくできないときのコツ、呼吸が浅いと感じるときの整え方、デスクや寝る前にできる呼吸法までをやさしく解説します。
- 腹式呼吸とは何か、胸式呼吸との違いがわかる
- 寝ながら・座ってできる腹式呼吸の正しいやり方がわかる
- お腹がふくらまない、苦しくなるなど、うまくできないときのコツがわかる
- 呼吸が浅くなる原因と、姿勢から整える方法がわかる
- デスクや寝る前にできる呼吸法と、練習するときの注意点がわかる
腹式呼吸とは:横隔膜を使う呼吸
まずは、腹式呼吸がどんな呼吸なのかを知っておきましょう。
しくみがわかると、練習するときに体のどこを意識すればいいかが見えてきます。
横隔膜が上下する呼吸
腹式呼吸とは、肺の下にあるドーム状の筋肉「横隔膜」を大きく動かす呼吸のことです。
ハーバード大学医学部の健康情報サイト(Harvard Health Publishing)では、息を吸うと横隔膜が縮んで下がり、胸の中が広がって肺がふくらむこと、息を吐くと横隔膜がゆるんで上がることが説明されています。
横隔膜が下がると、その下にある内臓が押し出されるため、お腹がふくらみます。
「お腹で呼吸する」ように見えるのは、このため。
実際に空気が入っているのはお腹ではなく、肺です。
胸式呼吸との違い
胸式呼吸は、肋骨のまわりの筋肉を使って、胸を広げる呼吸です。
息を吸うと胸や肩が持ち上がり、呼吸は浅く速くなりがちです。
Harvard Health Publishingによると、人はもともと横隔膜を使って深く呼吸する力を持っています。
それが年齢を重ねるうちに、日々のストレスや、お腹を引っこめるくせなどによって、浅い胸式呼吸に移りやすいのだそうです。
どちらが良い・悪いではなく、ふだん胸式呼吸に偏っている人が多いからこそ、意識して腹式呼吸を練習する意味があります。
腹式呼吸で期待できること
同じくHarvard Health Publishingでは、腹式呼吸によって酸素と二酸化炭素の交換が十分に行われ、心拍数が下がったり、血圧が下がったり安定したりすることが紹介されています。
ゆっくりした呼吸そのものにも、心と体をゆるめる働きが期待されています。
2018年に発表された研究のまとめ(Frontiers in Human Neuroscience)では、1分間に10回未満のゆっくりした呼吸によって、リラックス感や快適さが高まることなどが報告されています。
ただし、まとめに含まれた研究は少なく、結果にはばらつきもあるため、「必ずこうなる」というものではありません。
腹式呼吸の正しいやり方
腹式呼吸は、最初は寝た姿勢で練習すると、お腹の動きを感じやすくなります。
慣れてきたら、座った姿勢でもできるようにしていきましょう。
まずは寝ながら練習する
長寿科学振興財団の健康長寿ネットやHarvard Health Publishingで紹介されているやり方をもとに、手順をまとめました。
- 仰向けに寝て、ひざを軽く曲げます。頭やひざの下にクッションを入れてもかまいません。
- 片手を胸の上に、もう片方の手をおへそのあたりに置きます。
- 口を閉じて、鼻からゆっくり息を吸います。胸の手はあまり動かさず、お腹の手が持ち上がるように、お腹をふくらませます。
- 口を軽くすぼめて、ゆっくり息を吐きます。お腹がへこみ、お腹の手が元の位置に下がっていくのを感じてください。
胸の手が大きく動くときは、胸式呼吸になっているサイン。
お腹の手だけが上下するようになれば、腹式呼吸ができています。
座ってするときのやり方
慣れてきたら、椅子に座って練習してみましょう。
椅子に深く腰かけ、ひざを軽く曲げて、肩や首、頭の力を抜きます。
背もたれに寄りかかりすぎず、背すじを無理のない範囲で伸ばすと、お腹が動きやすくなります。
手の置き方と呼吸の手順は、寝ているときと同じです。
Harvard Health Publishingでは、1回5〜10分、できれば1日に何回か行うことがすすめられています。
秒数とペースの目安
最初は秒数を気にせず、吸う息より吐く息を長くすることを意識してみてください。
慣れてきたら、「鼻から4秒かけて吸い、口から6〜8秒かけて吐く」くらいのペースが目安です。
このペースだと、1分間におよそ5〜6回のゆっくりした呼吸になります。
健康長寿ネットでも、呼吸の練習では1分間に10回くらいを目標に、ゆっくり吐くことがすすめられています。
数えるのが苦しく感じるときは、秒数を短くしてかまいません。
大切なのは、自分にとって心地よいペースで続けることです。
腹式呼吸がうまくできないときのコツ
腹式呼吸は、頭で理解しても、最初はなかなか思うようにできないものです。
よくあるつまずきと、その乗りこえ方を紹介します。
お腹がふくらまないときは、吐くことから始める
お腹をふくらませようと意識するほど、うまくいかないことがあります。
そんなときは、まず息を吐ききることから始めてみてください。
口をすぼめて、お腹をへこませながら、細く長く息を吐ききります。
吐ききったところで力を抜くと、自然に空気が入ってきて、お腹がふくらむはずです。
「吸う」より「吐く」を先に意識すると、腹式呼吸の感覚をつかみやすくなります。
肩や胸が動いてしまうときは、手やお腹の重みで確かめる
息を吸うたびに肩が上がってしまう人は、肩に力が入っているのかもしれません。
一度肩をぐっと持ち上げ、ストンと落として力を抜いてから始めてみましょう。
仰向けになって、お腹の上に軽い本を一冊のせて練習するのもひとつの方法です。
息を吸うと本が持ち上がり、吐くと下がる。
目で見て確かめられるので、お腹の動きをつかみやすくなります。
苦しい・頭がくらくらするときは、いったん休む
深く吸おうとしすぎると、かえって苦しくなったり、頭がくらくらしたりすることがあります。
そんなときはすぐにやめて、ふだんどおりの呼吸に戻してください。
腹式呼吸は、たくさん吸うことが目的ではありません。
「いつもより少しゆっくり、少し深く」くらいで十分です。
回数や時間も、最初は1〜2分から始めましょう。
呼吸が浅いと感じるとき
「なんだか呼吸が浅い」「深く息を吸えない気がする」と感じている人は少なくありません。
原因を知って、日常の中で整えていきましょう。
呼吸が浅くなる主な原因
呼吸が浅くなる主な原因には、次のようなものがあります。
- 緊張や不安、ストレスが続いている
- お腹を引っこめるくせがある
- パソコンやスマートフォンを見るときに、前かがみや猫背になっている
- 長時間座りっぱなしで、体がこわばっている
- 集中しているとき、気づかないうちに息を止めている
前かがみの姿勢では、胸やお腹が圧迫され、横隔膜が動きにくくなります。
画面に集中している時間が長い人ほど、呼吸は浅くなりがちです。
浅い呼吸に気づくチェック
自分の呼吸が浅くなっていないか、ときどき確かめてみましょう。
- 息を吸うと、肩や胸が持ち上がる
- 呼吸の回数が多く、せかせかしている
- ふとしたときに、ため息をつくことが多い
- 肩や首がいつもこっている
当てはまるものが多いときは、呼吸が胸に偏っているのかもしれません。
気づいたときに、ひと呼吸だけでも腹式呼吸をしてみてください。
姿勢から呼吸を整える
呼吸を整えるには、姿勢を整えるのが近道です。
座っているときは、椅子に深く腰かけ、おしりの骨で座るように意識すると、背すじが自然に伸びます。
あごを軽く引き、肩の力を抜いて、胸を少し開く。
それだけで、横隔膜が動くスペースが広がり、息が入りやすくなるのを感じられるでしょう。
1時間に一度は立ち上がって伸びをするのも、こわばった体と呼吸をリセットするのに役立ちます。
デスクや寝る前にできる呼吸法
腹式呼吸に慣れてきたら、日常のさまざまな場面に取り入れてみましょう。
ここでは、短い時間でできる呼吸法を紹介します。
デスクで1分:吐く息を長くする呼吸
仕事や家事の合間に、椅子に座ったまま1分間だけ呼吸に意識を向けてみてください。
鼻から4秒かけて吸い、口から6〜8秒かけて、細く長く吐きます。
これを5〜6回くり返すだけで、肩の力が抜け、頭の中が少し静まっていくのを感じられるはずです。
ゆっくりした呼吸は、緊張と休息の切りかえを担う自律神経とも関わっています。
自律神経を整える生活習慣については、自律神経を整える方法:乱れたときの症状と、今日からできる整え方でくわしく紹介しています。
口すぼめ呼吸で、吐く息をコントロールする
健康長寿ネットでは、呼吸の練習として「口すぼめ呼吸」も紹介されています。
口をすぼめて、「フー」と音をさせながら、ゆっくり息を吐く方法です。
ろうそくの火を消さない程度に、細く長く吐くイメージで行ってみてください。
吐く息を自然に長くできるので、腹式呼吸の練習としても取り入れやすい方法です。
寝る前の呼吸で体をゆるめる
寝る前に布団の中で仰向けになり、腹式呼吸をくり返すのもおすすめです。
吐く息に合わせて、肩、腕、背中、足と、体の力が順番に抜けていくのをイメージしてみてください。
眠ろうとがんばるより、呼吸に意識を向けているほうが、自然と体がゆるみやすくなります。
眠れない夜の過ごし方は、眠れないときの対処法|寝れない夜にすぐ試せる方法と、寝つきが悪くなる原因にもまとめています。
腹式呼吸をするときの注意点
腹式呼吸は、多くの人が安心して取り入れられる方法です。
それでも、体の状態によっては気をつけたいことがあります。
持病がある人や体調が悪いときは無理をしない
呼吸器や心臓の病気がある人、お腹の手術を受けたばかりの人、妊娠中の人は、練習を始める前に医師に相談してください。
体調が悪いときや、胸の痛み、息苦しさがあるときも、無理に行わないようにしましょう。
呼吸法は、つらさの根本を治すものではない
腹式呼吸は、心と体をゆるめる助けにはなりますが、病気を治すものではありません。
息苦しさや動悸、強い不安が続くときは、呼吸法だけでなんとかしようとせず、医療機関に相談してください。
呼吸は、毎日の暮らしの中で自分を整える、身近な道具のひとつ。
そのくらいの気持ちで、気軽に続けていくのがちょうどよいでしょう。
よくある質問
Q. 腹式呼吸は、1日に何分くらいすればいいですか?
A. 最初は1回1〜2分から始め、慣れてきたら1回5〜10分を目安にしてみてください。
朝起きたとき、仕事の合間、寝る前など、1日に何回かに分けて行うと、習慣にしやすくなります。
Q. 立ったままでも腹式呼吸はできますか?
A. できます。
慣れてきたら、立った姿勢や歩いているときにも取り入れてみましょう。
ただし、最初は寝た姿勢や座った姿勢のほうがお腹の動きを感じやすいので、そちらから練習するのがおすすめです。
Q. 腹式呼吸をすると、お腹まわりがやせますか?
A. 腹式呼吸だけで、お腹まわりがやせるという確かな根拠は限られています。
腹式呼吸は、リラックスや姿勢を整える習慣として取り入れるのがよいでしょう。
Q. 腹式呼吸と瞑想は、どう違いますか?
A. 腹式呼吸は、呼吸のしかたそのものの練習です。
瞑想は、呼吸などに意識を向けて心を落ち着ける練習で、その中で腹式呼吸を使うことも多くあります。
瞑想のやり方は、瞑想とは何か?初心者でも3分でわかる意味・やり方・効果を完全解説で紹介しています。
まとめ:腹式呼吸は、いつでも自分をゆるめられる道具
この記事について、あらためて整理します。
この記事のまとめ:
- 腹式呼吸は、肺の下にある横隔膜を大きく動かす呼吸で、息を吸うとお腹がふくらみ、吐くとへこむ
- 人はもともと腹式呼吸の力を持っているが、ストレスや姿勢のくせで、浅い胸式呼吸になりやすい
- 最初は仰向けで、片手を胸、片手をお腹に置き、鼻から吸って口から吐く練習から始める
- うまくできないときは、吐ききることから始め、苦しくなったらすぐに休む
- 呼吸が浅いと感じるときは、姿勢を整え、デスクや寝る前に吐く息を長くする呼吸を取り入れる
- 持病がある人や体調が悪いときは無理をせず、つらい症状が続くときは医療機関に相談する
呼吸は、いつでもどこでも、自分の意思で変えられる数少ない体の働きです。
腹式呼吸を身につけると、緊張したときや眠れない夜に、自分で自分をゆるめられるようになります。
まずは今日、寝る前に布団の中で、お腹に手を当てて5回だけ呼吸してみてください。
お腹がゆっくりふくらんで、へこんでいく。
その感覚が、深い呼吸を取り戻す最初の一歩になります。
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